実家には、今、4匹の猫が住みついている。
小さな赤ちゃん猫の時、母猫に置いていかれた体の弱かったチビと、これまた赤ちゃんの時からいつの間にか居て、時々脱走するタックン。
すっかり家猫になってしまったこの二匹。
そして大人になってから何処からとも無くふらりと現れ、餌を与えているうちに、追い出せなくなった外猫が二匹。
この4匹の他に、近所の猫も時々遊びに来ている。
猫の世界もいろいろあるようで、私が実家に顔を出すたびに、母から・・・妹から・・・猫報告がある。
私は、この家に住みついた猫の順番から、どの猫が一番弱虫で、どの猫が強いのかも知っている。
この猫とこの猫は仲良しで、母との散歩を楽しみにしていて、行き先を告げると、どこからとも無く現れついて来るのも知っている。
私が4匹の猫の性格から今までの流れのほとんど把握しているのに、母は、時々やけに張り切って最初から説明しようとする。
「あの・・・、私、存じておりますが・・・。」
やれやれ・・・まだ、おボケになられてはこまるんだけど・・・
と、少し心配になりながら、嬉しそうに話す母の顔を見ると、呆れながらもかわいい人だと思い
私は妹に、ちらっと目配せをする。
この中の、ボサボサと名付けられた猫が、この家の住人に言わせると、私の飼い猫という事になっている。
ある日、妹が
「凄い猫がいるんだ!ちょっと、来て見て!」
この猫が現れた時、一瞬顔が引きつるほど驚いたと妹は私に報告した。
私も、このボサボサを初めて見た時、さすがに怖くなった。
どこからやってきたのかも、こんなに汚れているのは何故なのか、皆目見当がつかなかった。
初めは、テラスのコンクリートのうえで・・
次は、茶の間の掃きだしの前で、ただじっと座っている。
座ると言っても、、まともに座ることは、できなかった。
か細い足は、毛が少ないのか、骨に皮が貼り対いているだけなのか・・・こんなでよく歩けるものだとも思った。
目の周りには、まともに毛も生えていないようで、つりあがった目は、皮だけになり腫れ上がって見えた。
手、足、胸の毛は、何か油の中にでも放り込まれたのではないかという位、茶色く汚れて束になっていた。
耳の中は、茶色の汚れがべっとりと付いて乾いていた。
何故、この家に来たのだろう。
じっと見ていると、涙が出てきた。
何故だか分からない。
何かが、す~っと入ってきたような。
この猫をこのままほうって置くわけにはいかなかった。
ただ、正直言ってその時、撫でてやることは出来なかった。
あまりにも汚れていて、さわっただけで、こちらが病気になりそうなくらいひどい状態だった。
撫でてやるが出来ないことは、勘弁してもらった。
そして、母と妹にご飯を食べさせてもらえるように頼んだ。
こうしてこの猫は、私のボサボサということになったらしい。
今は、すっかり上手く座ることも出来るようになったし、毛も猫らしくかろうじてふわふわと風に揺れるようになった。
目を開けても、普通の猫と変わらない顔つきになり、なんといっても、撫でることができるようになった。
母には、足にすりよって甘えるようになった。
しかしまだ、どこかで人間を警戒している。
そばに近づいて
「ボサボサ~・・」
と呼んでみる。
「にゃ~・・」
とか細い声で返事をする。
しかし、撫でるのはちょっとまだ怖い。
撫でたあと、手を洗うという失礼な事を、私達はもちろんあの母までもするのだからよっぽどのことだ。
これには、妹と私は顔を見合わせ笑ってしまう。
かわいそうだが、仕方ない。
しかし、シャンプーはして上げられないが、ご飯を食べさせ撫でるだけで、こんなかわいい猫になるなんて。
あいかわらずボサボサでも嬉しいことだ。
もっと、ふさふさになったら、改名しないとな、ボサボサ。
今日も、ボサボサは暖かい陽だまりを見つけて、じっとすわったまま目をとじている。
この家に居てくれるだけでいいんだ。
ボサボサ~・・・
にゃ~・・・
何故ボサボサがここに居るのか、何となくわかってきた・・・。